MY DORMEUIL - Special Interview -


MY DORMEUIL vol.10  
立川 志らく氏
インタビュー



今回のMY DORMEUILは、落語家でありながら朝の情報番組のMCやコメンテーターとして、引っ張りだこの立川志らく氏が登場。
立川談志に入門し、異例のスピードで真打に昇進、テレビ出演が多くなる以前から、落語家としてのファンも多い志らく氏に、日本の古典芸能の世界のお話を交えてファッションについて語っくださいました。



志らくさんが落語家を目指されたのはいつ頃からだったのでしょうか?

やはり、落語の世界から着物との接点が始まったのでしょうか?


落語に興味を持ち始めたのは小学校の高学年で、中学生くらいには昔の名人のレコードを聴いていて、こどもですから、全部覚えちゃうんです。でも、落語家になろうという気持ちは全く無 くて、映画が好きだったのでそっちの世界に行きたいと思っていました。

落語家になろうと思っ たのは大学生になってからですね。 いわゆる落研という落語研究会に入って、そこで初めて着物をきました。浅草かどこかの安い古着屋に行って、それこそ二、三千円の丈も合わないようなのを買ってきて。学生ですから、帯の締め方も良くわからずね。それが最初になります。でも実際その頃は、着物というよりも学生時代は浴衣が多かったと思います。普段は浴衣でやっていて、大きい落語会がある時は着物を着ていました。 



それでは、落語家になってから本格的に着物をきるようになったのですね。


そうですね。それこそ、前座修行している頃はお金もないので、大学生の時と同じです。古着屋に行って自分になるべく身丈の合うものを探してきて、というのが修行期間中ですね。“二ッ目”という一つ階級が上がった時に、紋付きを作らなくてはいけないのだけど、そんなお金は無いんですよ、仕事も無いし。でも亡くなった母方の祖母が黒紋付きをプレゼントしてくれたんです。本格的な着物はそれが最初ですね。その時、ちゃんとした着物はこんなに着心地がいいのか!と思っていたら、あとあと、ものすごく高価なものだとわかりました。クリーニングに出した時に、呉服屋が驚いていて、すごく良いもの着てますねぇ、こんな生地、今は無いですよ!と。確かに、そのあと自分で新しくいわゆるある程度の紋付を作ったときに、なんて着心地悪いんだろうと思ったくらいで。そんなに良いものを買ってくれていたんだととても嬉しかったですね。普通だったら、こんなにすごいのよ!と自慢したい部分もあると思いますけど、そんなこともなくて。孫が覚悟決めてやっていくというか、そういう家族としての気持ちだったんだと感じます。着古したので今は着ることはないですけど、大切に家に仕舞ってあります。



落語家として着物を選ぶ時のこだわりなどはありますか?


落語をやるに時には色はあんまり派手なものを着ないほうがいい、というこの世界のしきたりみたいなものがあるので地味目なものが基本なんです。でも自分が着物をきるように なった頃は落語が冬の時代だったので、若い子にアピールするためにもちょっと派手なのを着る覚悟もありました。ピンク色の物を作ってみたりしましたけど、でも結局は落ち着いた色の方がいいんです。 あんまり明るすぎるのだと着物に食われちゃうというか、お客がそっちに目が行っちゃうんです。全身オレンジ色だとか、インパクトは強いんですけどね。派手な着物が衝撃的でお客が忘れないというのはあるんでしょうけど、実際、噺の世界に入っていきづらいと感じます。



志らくさんにとって着物はやはり仕事着という感覚なのでしょうか?


仕事着ですね。落語家は落語する時は着物を着るのですが、テレビに出る時には着物を着ない人が結構多いんです。でも私はあえてテレビのレギュラーが決まったときに着物で通そうと思いました。
やはり、着物は世界中のどこ探しても日本人しか着ていない日本の文化であるし、川端康成がノーベル賞をとった時の着物の姿とかかっこいいじゃないですか。あ、テレビにせっかく出る機会があるなら、着物を着ている人はあまりいないし、自分が落語家であることを皆さんが意識するし良いな!と。洋服着ると、テレビタレントの一人になってしまう。いくら落語家ですといっても、毎日洋服だったら落語家だっていうのは消えてしまいますよね。でも着物をきていれば、押しつけがましいですけど、落語、落語と意識する。
落語を良く聞いているっていう“落語ファン”て、実は日本人の2%くらいなんですよ。98%は落語に対してほとんど興味ないんです。落語ファンの数は少ないけど、落語知らない大人はいない。聞く人の想像力とか知識で面白さが変わる芸能なので、現代にはあまり合わないんですけどね。
とはいえ、吉原がわかんない、長屋がわかんないって言っても、日本人の場合は映画を字幕で観れるだけの器用さがあるから、わかんなくても何となくわかるんですよね。何となくわかれば別にそれでいいんです。
でも今の世の中、過剰な位親切だから、テレビ番組でも全部テロップが出て、どんどん想像力がいらなくなってしまう。考えなくてもよくなると、それこそ文化も衰退してしまいます。 



お仕事の際は着物ということは、普段の装いはどんなものをお召しなのでしょうか?


カジュアルですね。以前は量販店で適当に買った洋服を着ていて、もともと30代から結構
白髪があって染めもしていなくて。それで、かみさんと年齢差が18歳もあるので、結婚する前なんかは一緒に歩いていたら援助交際と間違われたりして。そんな恰好じゃあ全然かっこよくないとなったんですが、何を着たらよいのか、ブランドとか全然知らないんだよねと相談して、比較的おしゃれなブランドということでおすすめしてもらって着ている感じです。



今回のドーメルでのお仕立ては仕事着である着物ということですが、着心地などはいかがでしょうか? 


普段着ている着物は基本的に同じ呉服屋で注文しているので、それに着なれていると、違う着物をたまに人から貰ったりすると、良い物でも着心地に違和感があったりするんです。正直、ドーメルの着物もその点でどうかなと思っていたのですが、すっと馴染んで、すごく良い着心地です。着た瞬間にわかりました。一年中着物を着ていて体が覚えているので。すんなりと、着られて、着ていて全く違和感ないです。そして、古典芸能の方が着られているだけあって、丈感やつくりもちゃんと考えられていますね。 



ズバリ志らくさんにとって、良い着物とはなんでしょうか?


良い着物は、粋に見えたり、知的に見える着物ですね。
よくお正月に無理をして着物をきたりしてる人がいるけど、そうするとあまりいい着物を
きないから、すごくゆるく見えてしまう、帯の締め方なんかもそうです。着物は着方を間違えるとひとりだけお祭りみたいになってしまったり、格好悪かったりと、ちょっと、なんだいその恰好は?ってなってしまう。でも、つるしじゃなくて自分のサイズに合ったものを選んで、着方もきちんと教えてあげたら、お、知的に見えるね、粋に見えるね!となるはずなんです。
そして、着物はゆったりした文化にあうんです。着物って普通に着たままじゃ走れない。ゆっくり歩く、水たまりがあってもジャンプしないで、すっとよける。世の中が豊かでゆっくり時が流れていないと合わないんです。その中でうまれた、粋っていう文化があるのは日本だけですから。英語じゃ訳せない。粋とか乙とか、抽象的でことばで説明できないけどある程度の年齢になると何となくわかってくる。かっこいいと粋はちがう。着物でもスーツでも、粋な着こなしだね、というのがあるように、それを大切にしないとね。




立川 志らく


落語家、映画監督(日本映画監督協会所属)、映画評論家、


劇団主宰、TVコメンテーター、寅さん博士、昭和歌謡曲博士の異名も持つ   1963年8月16日 東京都生まれ 1985年10月立川談志に入門 1988年二つ目昇進、1995年真打昇進 現在弟子18人をかかえる大所帯   父はクラシックのギタリスト、母は長唄の師匠 特技:ダーツ、けん玉、ブルースハープ




DORMEUIL AOYAMA

1842年パリ創業のラグジュアリーファブリックブランド、ドーメルのテーラー。メンズ、レディース。

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